コラム

コラム2024年01月「unknown」

 令和6年1月1日、一年ぶりに広島の実家に戻り寛いでいたところにテレビから飛び込んできたのが北陸の震災のニュースであった。全チャンネルが正月番組から緊急速報に切り換わり、キャスターが必死に避難を呼び掛け続けていた。そして特にくり返された「東日本大震災を思い出してください!」という言葉がとても印象に残った。

 思い出してください…当然それは相手が東日本大震災を知っていることを前提としてのメッセージだ。あの地震が起きたのが2011年。当然現在13歳以下の子供はまだ生まれていなかったので経験していない。また生まれていたとしても物心がついてしっかり記憶が残り始めるのが小学1年生だとすると、現在20歳未満の人たちは東日本大震災のことを知識としては知っていても実感としては持ち合わせていないことになる。

 もちろんそれがいけないということではない。世代によって体験している出来事が異なるのは当たり前だ。僕だって幼少時に太平洋戦争の話しを祖父や祖母から聞いた時、とても遠い昔の別世界のことのように感じた。しかし祖父や祖母からすれば数十年前に体験した確かな現実だったのである。

 つまり何が言いたいかと言うと、みんなが知ってるわけじゃない、同じ感覚を持ち合わせているわけじゃないということ。「あの東日本大震災を知らないのか!」なんて経験している世代はつい思ってしまうが、経験していない世代からすれば知らないものは知らないわけで、無知だ不謹慎だと責められても困る。そして時代は流れてそんな世代がやがて世の中を動かしていく。悲劇から学んだ教訓はもちろん受け継いでいくべきだが、悲しみや憎しみまで世代を越える必要はない。知らないことは必ずしも弱味ではないのだ。

 僕も若い患者さんたちや若いスタッフたちから多くの学びを、多くの刺激を得ている。東日本大震災を知らない世代のこれからの活躍を大いに期待したい。そして被災地のみなさんが一日も早く心穏やかに過ごせる日が来ることを願っている。

(文:福場将太)

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