デイケア活動日誌

2018年09月『こころの保健室 みんなで地震のPTSD予防』

 平成30年9月6日(木)午前3時過ぎ、北海道を地震が襲いました。クリニックがある美唄市は震度4を計測、多くの人が恐怖を体験しました。当日はクリニックも停電し、パソコンも使えなければ処方箋や診断書も印刷できない、入り口のシャッターさえ開かない状況でした。そのためなんとか太陽光が入るデイケアルームに臨時の待合室と簡易の診察室をセッティングし、患者さんには裏口から入ってもらい、書類関連は全て手書きで対応しました。訪問看護も徒歩で行ないひとまずは患者さんの無事を確認。薬局さんも調剤機が使えない中、手でお薬を準備してくださいました。

 幸いなことに午後からは停電が復旧。遠方のスタッフが出勤できなかったり、デイケアで用意する食事の食材が届かなかったりと前途多難でしたが、患者さんのご協力とスタッフの頑張りのおかげで、翌日以降もなんとか診療を続けております。
 少しいつもの落ち着きが戻って来たところで、僕ら心の医療者にはやらなくてはならないことがありました。それはPTSDの予防です。

 PTSD、心的外傷後ストレス障害とはショックな出来事が起こった後に時間が経過しても落ち込みや自責感、不安や不眠が続いたり、その時の体験がフラッシュバックしたり、特定の物を避けるようになったりする病態です。阪神・淡路大震災の後に多く報告され世間的にも注目されました。この病態を治療するには専門機関での長い年月が必要で、実際に地震から10年以上経過しても症状を抱えている患者さんもおられます。そして被災者だけでなく、テレビなどでその映像を見た人にも発症しうることも知られています。

 実際に、9月6日以降、外来で不安や戸惑いを訴える患者さんはたくさんおられました。僕自身いつもと何かが違うなあとモヤモヤした感覚がありました。そこで予定していた内容を変更し、9月11日(火)にPTSD予防のための『こころの保健室』を開催しました。

 普段は少人数で机を囲んで行なう医療学習のプログラムなのですが、今回はデイケアメンバーさんみんなに参加して頂き、また普段デイケアを利用していない患者さんにも声をかけました。そしてみんなで今回の地震を振り返り、抱えている不安・怒り・緊張などを言葉にしてもらいました。

 そう、PTSDの一番の予防は心を閉ざさないこと。地震があれば怖かったり悲しかったりするのは当たり前、子供でも大人でも怖いものは怖いのです。どうして自分は生き残ったのだろう、何もできなかったんだろうと自分を責める気持ちが生まれることも少なくありません。そんな気持ちは心に閉じ込めず、ちゃんと吐き出しましょう。ばい菌もちゃんと排出すれば大丈夫なのと同じ、ストレスもちゃんと吐き出しておけばPTSDの発症を予防できます。モヤモヤをそのまま心に閉じ込めてしまうと、それが将来PTSD発症の引き金になってしまうのです。

 今回の『こころの保健室』では、患者さんもスタッフも一人ずつ一言でもいいので気持ちを語ってもらいました。余震が心配という方、パニックになったという方、冗談を言ってみんなを和ませてくれる方、遠くにいる家族から久し振りに電話が来て心強かったという方などなど、気持ちは色々でしたがまずはそれを語れたことがよかったです。
 そして改めて感じました。やっぱり人は人と繋がっておかなければならないと。大変な状況の中でも不安を分かち合える仲間がいる、気に欠けてくれる人がいる、それだけで心は何倍も強くなれるのでしょう。

 僕自身も、けして一人で生きているわけではないこと、多くの人たちのおかげでここにいることを思い知らされました。まだまだ予断を許さぬ状況ですが、みんなで乗り越えていきたいです。

 そしてもし、あなたが一人で不安を抱えておられるのなら、ちゃんとそれを吐き出しに来てください。今は語ることが何より重要な時なのです。

(文:福場将太)

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