コラム

コラム2015年09月「秋の夜長に心の名作(12) DORA THE BEST」

 ふと寂しくなった時、未来を見失った時、そっと心に寄り添ってくれる作品があります。元気を呼び起こしてくれる作品があります。そんな名作たちをご紹介する毎秋恒例のこのコーナー、今年は『30周年』をテーマにやってみましょう。つまり1985年に誕生した作品たちです。みなさんの秋の夜長のお供を見つけるきっかけになれたら嬉しいです。

 まずその第一弾として今月ご紹介するのはアルバム『DORA THE BEST』。その名の通りドラえもんにまつわる楽曲を収録したCDです。もちろんドラえもん関連のCDは他にもたくさんありますが、僕の知る限り映画主題歌を全曲収録した初めての作品ではないでしょうか。
 ドラえもん映画といえば1980年に第1作が公開され、以後毎年春の風物詩として製作が続けられている国民的人気シリーズ。その魅力はストーリー・キャラクターそして世界観にあるわけですが、映画を盛り上げ心に残るものにしてくれているのは主題歌の力も大きく作用していると思います。特に原作者の藤子・F・不二夫先生がご存命だった第17作までは、毎回武田鉄矢氏作詞のもと独自の主題歌が製作されていました。「独自の」とは、いわゆるヒットチャートに参戦するタイアップ曲ではなく、その映画を彩るためだけに作られた曲という意味です。ドラえもん映画主題歌たちはまさにテーマソングの名に恥じず、一作一作のテーマに見事にシンクロしているのが素晴らしい。作品と主題歌、お互いがお互いを深め合い引き立てあっています。歌手の顔や名前を思い浮かべる必要もなく、映画の中でしか聴けない名曲たち。みなさんも幼い頃ドラえもん映画を観て、子供心に「いい曲だな」と感じた主題歌がきっとあったのではないでしょうか。映画ではフルコーラス流れないことが多いので、僕も「全部聴きたい」と幼少時から願い続けていました。そしてついに発売された『DORA THE BEST』を店で見つけた時は本当に嬉しかった。迷わず購入し家のラジカセにセットしてスイッチを押した瞬間…あの曲もこの曲も、ずっと好きだった主題歌たちが惜しげもなくフルコーラスで次々に流れる…あの感動と興奮は今も忘れられません。
 そんなドラえもん映画主題歌の中でも最もファンの人気が高い曲が生まれたのが1985年なのですが、今回はそれも含め一挙に歴代主題歌をご紹介します。

●「ポケットの中に」
 第1作『のび太の恐竜』より。初めての映画ということで、脚本・演出・作画など全てが手さぐりだったと思われます。主題歌は特に本作に言及した内容ではありませんが、「ドラえもんと不思議な世界に冒険に出かける」というこれからの映画シリーズを通しての共通テーマが描かれています。子供たちにとって、ドラえもんとはどこにいてどんな存在なのかをわかりやすく感じさせてくれる一曲です。

●「心をゆらして」
 第2作『のび太の宇宙開拓史』より。この曲は子供たちでも大人たちでもなく、まるで人間を見守る神様のような俯瞰の視点で歌われているのが印象的。作中では最後の別れの場面で使用。地球とコーヤコーヤ星とを繋ぐドアが遠ざかって消えていく中、音声がカットされ主題歌だけが流れる。のび太たちがどんな別れの言葉を交わしているのかはわかりませんが、それがとてもよい演出。特にのび太に教わったあやとりをやってみせる異星の少女とそこにそっと拍手を贈るのび太の姿が印象的。もう二度と会えなくても、一緒に楽しい時間を過ごした証はちゃんとお互いに残されている。心をゆらして、時にはそんな思い出を巡りましょう。

●「だからみんなで」
 第3作『のび太の大魔境』より。これについては以前にもこのコーナーで書いたので割愛します。ドラえもんが本当の意味で映画になり、そして主題歌も本当の意味で主題歌になった作品。福場のフェイバリットです。

●「海はぼくらと」
 第4作『のび太の海底鬼岩城』より。本作をドラえもん映画の最高傑作に挙げる人も多いですが、それくらい脚本・演出のクオリティが高い。ムー大陸・海底都市アトランティス・バミューダトライアングルなど海の神秘を盛り込んだ設定、前半の夢のような世界から後半の恐怖の闇へと流れていくストーリー、人間とメカの関係や核問題を無意識に考えさせるさり気ないテーマ、そしてドラえもん映画史上に残る任期キャラクター・水中バギーの存在…どれを取っても素晴らしい。だからこそ本作の主題歌は良い意味で存在感が薄い。全く自己主張せず、全てが終わったエンドロールで流れるのです。子供の頃は、静止画でしかもインパクトの弱い主題歌に「退屈なエンディングだ」と不満もありましたが、今思えば本編でもう十分お腹いっぱいだったからこそのこの演出なんだと納得。優しい歌と海の静止画の中、感動の余韻にひたるのです。

●「風のマジカル」
 第5作『のび太の魔界大冒険』より。実はこの主題歌は劇場公開時しか使用されておらず、その後のビデオなどでは前々作の「だからみんなで」に差し替えられています。僕もビデオで見た世代なのでどうしてもそちらの印象が強いですね。この頃になると作中のBGMもかなり充実しており、過去作品からの使用曲も散見されます。特にメンバー全員集合した場面で、「心をゆらして」のメロディが流れるのは嬉しい演出。

●「少年期」
 第6作『のび太の宇宙小戦争』より。これが1985年、これがファンが最高傑作と呼ぶ主題歌です。僕がCDに収録されていて一番嬉しかった曲でもあります。この曲のすごさは、その切ないメロディと歌詞。だって映画の内容は宇宙戦争ですよ?普通なら派手な曲や壮大な曲をあてがいそうなもんじゃないですか。それなのにギター一本で歌ってもいいようなこの主題歌。おそらくこの曲で映画の印象は180度変わったと思います。全編通して流れているので、日常のシーンも出撃のシーンもとにかく切なく物悲しい。そして作中で独裁者と戦うというすごいことをやっているのび太たちですが、やっぱり彼らは少年なんだとふと感じさせてくれる効果も与えています。

●「わたしが不思議」
 第7作『のび太と鉄人兵団』より。藤子F先生と武田氏がどれだけ打ち合わせをされたのかはわかりませんが、最も作品の核とシンクロした主題歌だと思います。本作は表面的に観賞すると「友情や思いやりの物語」なのですが、僕はこの映画の真のテーマは「矛盾や葛藤こそが人間の証明」ということだと思います。だからこそ心の不思議を描いたこの主題歌が相応しい、ヒロインのリルルにぴったりなのです。

●「友達だから」
 第8作『のび太と竜の騎士』より。第6作とは逆に、シリアスな内容の映画に明るくのん気な曲があてがわれています。恐竜絶滅の真相、地上人と地底人というどちらも悪ではない二つの種族の戦い、タイムマシンも絡んだかなり複雑なストーリーは正直子供にはついていけません。でもこのドラえもんが歌う主題歌のおかげで楽しく映画を観られるのです。

●「君がいるから」
 第9作『のび太のパラレル西遊記』より。本作は藤子F先生ご病気のため初めて原作なしで作成された映画ですが、とても完成度が高いです。ちなみに福場が初めて映画館で観たドラえもん映画でもあります。内容は前作と異なりわかりやすい悪役たちをやっつける痛快な冒険活劇。とにかくアクションの連続でのび太がかっこいい。そしてこの主題歌も、初めてのロックサウンドでとてもかっこいい。特に燃え盛る城に飛び込むシーンがよい。映画館を出たところでたくさんの少年がこの曲を口ずさみながら孫悟空の真似をしていました。もちろん僕もその一人。親と観に行った後、親戚にせがんでもう一度映画を観に行ったのを思い出します。

●「時の旅人」
 第10作『のび太の日本誕生』より。武田氏の作詞の才能を感じさせられた一曲です。ラブソングでも応援歌でもなく、何億年も前から人間はこの地に生きていてそこには必ず誰かがいたということを優しく歌った内容。特に好きなフレーズは「私の心よもっと広がれ」。作中では、初めて日本に辿り付いた人々が村を作るシーンで使用されています。詞・曲に加えアレンジも素晴しく、特に高温域を多用したピアノが美しい。こんな名曲が映画のためだけに作られているというスタッフの心意気が最高!

●「天までとどけ」
 第11作『のび太とアニマル惑星』より。動物だらけの星での冒険ですが、主題歌は人間について歌ったもの。つまり本作で描かれているのはやっぱり人間の姿なのです。戦争をするのも人間、自然を破壊するのも人間、動物を傷つけるのも人間。でもこの曲は歌ってくれます…夜空の星の一つ一つに綺麗な名前を付けたのは人間だから、と。この世で生まれた生き物たちで花を見つけて微笑んだのは人間だから、と。

●「夢のゆくえ」
 第12作『のび太のドラビアンナイト』より。映画の内容はタイトルにあるようにアラビアンナイトなのですが、一体ここにどういう主題歌をもってくるのかと思いきやまたまた武田氏の作詞が素晴しい。砂漠・三日月・魔法などの単語をこんなふうに使用するなんて。大人の落ち着きを持った女性ボーカルとストリングの優しいアレンジがとてもロマンティックな一曲。部屋で流しているだけで、真っ青な空と地平に広がる白い砂漠が浮かびます。

●「雲がゆくのは」
 第13作『のび太と雲の王国』より。「少年期」に続く切ないマイナーチューンの主題歌。歌詞の内容は自己犠牲と誰かの幸せ。環境問題をテーマにした本作にさり気なく重みを与えています。作中では、故障したドラえもんを抱えたのび太が大きな鳥の背中に乗って天上人の国を脱出し、自分たちの雲の王国に戻ってくるシーンに使用。残りの仲間は捕えられ、ドラえもんは壊れ、問題は何も解決していない状況。そこに映し出されるのは夜の静寂の中に佇むみんなで造った王国、みんなで遊んだ王国の風景。劇場で観たこのシーンの映像は今も心に焼き付いています。なんでしょうね、あの不安だらけの中で懐かしくてほっとしたような感覚。切ない主題歌の中、のび太の気持ちが流れ込んできたようでした。ちなみにこの映画は過去のテレビシリーズに登場したゲストキャラクターたちがたくさん再登場していることもあり、ドラえもんの集大成だと思っております。

●「何かいい事きっとある」
 第14作『のび太とブリキの迷宮』より。本作最大の特徴は冒頭でドラえもんが敵に捕らわれしかも壊されてしまいクライマックスまで活躍しない点。そのためのび太たちは秘密道具なしの4人だけで異星に乗り込みドラえもん救出に奮闘します。途中でのび太が「ドラえもんは人間以上のロボットなんだよ、ドラえもんのためなら僕は…」と口にするシーンが印象的。そんな中、この主題歌は正直あまり内容とは関係ないですが、アレンジが素敵。イントロのワクワクする感じが特に良く、作中でも起死回生の大逆転のシーンに使用されています。

●「夢の人」「世界はグー・チョキ・パー」
 第15作『のび太と夢幻三剣士』より。15周年のためか二曲も主題歌が作られています。特に「夢の人」はとてもアレンジがかっこよく、冒険アクションがメインの本作にぴったり。映画の内容に初期作品ほどのスリルや深みが感じられなくなってきた時期でもあり、そこを主題歌の力がうまく補ってくれているようにも思います。

●「さよならにさよなら」
 第16作『のび太の創世日記』より。非常に賛否両論のある映画だと思います。のび太が作った別の地球での古代から近代までの歴史を追っていく内容なのですが、教育アニメのような印象もあり特に子供には退屈かもしれません。のび太たちはずっと傍観者で活躍が少ないのも難点。ある一つの家系図を先祖から子孫まで追っていくという藤子F先生の想像力は素晴しいのですが、ドラえもん映画としてはやはり異色。主題歌は時間の流れ、出会いと別れの繋がりを描いた武田氏らしいフレーズ満載の一曲。特に時間の螺旋をリンゴの皮むきに比ゆする部分は天才的だと思います。

●「私の中の銀河」
 第17作『のび太と銀河超特急』より。藤子F先生は次回作の執筆途中で亡くなられたため、ご存命中の映画としては惜しくもこれが遺作です。それに合わせてか武田氏が作詞された主題歌も本作で打ち止め。武田氏らしい優しい作詞の一曲です。銀河→渦を巻いている→浜辺の貝殻、と結び付けてしまうその発想力が精神科医としてもとても羨ましい限り。
 映画の内容は、宇宙空間をSLが走るという胸踊る設定、難しいテーマを設けず悪い奴と戦うという冒険活劇は初期作品に通じるところがあり、ドラえもん映画再復興の兆しを感じたところでのご逝去だったので本当に悲しかったです。ですが先生が残された夢の種はもう十分子供たちの心に振りまかれていますので、大人になった僕たちもそれを忘れずに生きていきたいと思います。

 というわけでざっと振り返ってみたドラえもん映画主題歌たち。芸術の秋にこんな選曲を味わってみるのもよいものですよ。他にも『DORA THE BEST』にはテレビシリーズでおなじみの曲もたくさん収録されていますので、特に大山のぶ代さん時代のドラえもんに親しまれた方々にはお勧めです。
 気がつけば広島→東京→北海道と僕と一緒に旅して今もすぐそこに置いてあるこのCD。間違いなく人生のベスト10に入る愛聴盤ですね。

(文:福場将太)

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