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コラム
コラム2026年01月「I・P・S」
2026年1月29日(木)、札幌で活動しておられるNPO法人コミュネット楽創の主催で「仕事の意味を問い直す 合理的配慮からIPSまで」というオンラインイベントが開催され、登壇者の一人として参加した。
テーマは就労支援。僕自身は精神科医として患者さんが働くことをサポートする支援者であると同時に、たくさんサポートしてもらって働く視覚障害の当事者でもあるから、両方の立場で非情に興味があった。
みなさんは「IPS」をご存じだろうか。網膜再生医療などの話で出てくる人工多能製幹細胞のことではない。あれは「iPS」、細かい違いだが、頭文字のIが小文字である。実は僕も時々眼科の先生方と講演をしたり研究をしたりするので、最初に今回のお話をいただいた時も再生医療のイベントかと思ってしまった。
今回主題にしている「IPS」は、就労支援の新たなやり方・考え方のこと。日本語にすると「個別就労支援」「個別職業紹介支援」「伴奏型就労支援」などと表現される。就職前に色々訓練するのではなく、まず働いてみて訓練していこうというもので、特に精神疾患の当事者に特化したモデルをそう呼ぶ。その最たる特徴は、本人の好み・ニーズを中心にして支援を行なうということだ。
僕もついつい思ってしまう。こんなご時勢だから仕事に就けるだけでも有り難い、障害を持っている自分が働かせてもらっているだけでも恵まれている。働くとは雇う側のニーズに応えて給料をもらうことであり、自分のやりたい仕事ができる人はほんの一握りなんだと。
もちろんその考えが間違っているというわけではないが、そう決め付けてしまうことで失われている可能性は確かにある。登壇者の一人がおっしゃっていたが、「幸福をとどめると書いて福祉、目指すのは最低限の幸福ではなく最大限の幸福」。
例えばアイドルになりたいという患者さんがいたとして、支援者が付き添って一緒にオーディションを受けに行ったり、芸能事務所と面談したりする。それによって夢が叶う可能性はゼロではないし、100%は叶わなかったにしても形を変えて何かしらアイドルに関わる仕事がもらえるかもしれない、あるいは現実の厳しさを知って本人の心に別ベクトルのエネルギーが新たに生まれるかもしれない。
誰だって自分のやりたい仕事の方がやる気が出る、頑張れる。まずはやりたい仕事へのドアをノックするのは何もおかしくない。ノックを封じて、リハビリや訓練ばかりを指導するのが支援者の役割だろうか。失敗したり病状が悪化したりを恐れているのは実は支援者の方だけで、患者さん本人は傷付いても夢に挑戦したいかもしれないのだ。
IPSが夢物語ではない証拠に、実際にこの手法でうまくいったエビデンスも蓄積されてきている。やりたい仕事をしたい、誰かの役に立ちたい、そんな一番当たり前で、最も根源的な就労の願いを、支援者は見失ってはならないのだ。
(文:福場将太)






