コラム

2012年04月『NOT FOR SALE』

 日本は資本主義社会。生み出した商品がヒットすれば収益も上がる、たくさんの人から求められるのはいい商品だから・・・すなわち収益が上がったということはいい商品を提供できたということ、本来ならばそうであるはずだ、しかし今の世の中を見ていると、どうも「いいものを作ること」よりも「収益を上げること」の方が優先されてしまっている気がする。この不況では仕方のないことかもしれないが、例えば芸術の世界までそうなってしまうとそれはつまらない話だ。売り上げが見込まれる曲しか発売されない、視聴率が出ないドラマは早めに最終回、人気の出ない漫画は連載打ち切り・・・それでは本当の名作は日の目を見ないのではないだろうか。デビュー当時はぱっとしなくても後にとんでもない才能が開花するバンド、オンエアー終了後にじわじわ人気が出る名作ドラマ、後半とても面白くなる傑作漫画・・・今の世の中では、そういったものは生まれないのではないだろうか。作り手がいいものだと信じた作品ならば、すぐに収益に繋がらなくてもしばらく様子を見てあげる・・・そんな余裕がきっと今どこの業界にもないんだろ。大学で研究者をやっている友人は言う。「ある程度成果が見込まれる研究にしか予算はさかれない。それでは歴史的発見はありえない」と。

 では医療の世界ではどうだろうか。「いい治療をすること」よりも「収益を上げること」が優先されていないだろうか。製薬会社の宣伝マンは「ほらこのお薬は世界中でこんなにたくさん使われているいいお薬です」と宣伝する。でも裏を返せば病気が治ってないから患者さんたちはその薬を飲み続けているとも言える。病院における診察だってそうだ。一人の患者さんに対して丁寧になればなるほどいい治療が行なえる。しかしながら1人の患者さんにしっかりじっくり時間をかけて1日1人しか診察しなければ、どう考えても病院の経営は破綻してしまう。だからといって収益を上げることにこだわって不必要な治療をしたり、治すのを長引かせたり、1人1人の治療に時間をかけなくなっては当然いけない。実際にそんなことをして問題になっているニュースを見かける。
 いい治療をしていれば、治った患者さんは卒業し、また別の治したい患者さんがやって来る。それで自然に病院も収益を上げ職員たちに給料が支払われる・・・それがきっと病院の理想の姿なんだろうな。きっとみんなそれはわかっている。大切なのはそれを見失わないことだろう。病院の成功は企業の成功とは違う。たくさんの収益が上がったからではなく、患者さんの数が増えたからではなく、いい治療が出来たから我々は喜びを感じるべきでありそれこそが病院の成功なのだ。患者さんが少なければ少ないほど喜ばしい事なのだ。

・・・キレイごとだろうか。いくつもの病院が経営破たんしてなくなってしまうご時勢、そんなキレイごとばかりじゃいけないのはわかっている。実際にやっていない治療をやったと申告して収益を上げようとした病院が摘発されているニュースを見ると、そこまでしなくてはならないほど大変だったのかなと思ったりする。  キレイごとばかりでは生きていけない世の中、キレイごとを忘れずにいてくれる仲間たちと働けることを幸せに思う。今年度も本来の医療の喜びを忘れずにがんばっていきたい。

イメージ

(文:福場将太 写真:瀬山夏彦)

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