コラム

コラム2015年11月「昆虫の秋 〜将太とふしぎ虫使い〜」

 毎年11月は秋にちなんだコラムを書いていますが、今年あたりそろそろネタ切れかな…と思ったところでこんなことがありました。

 先月中旬、天気の良い土曜日のこと。本州暮らしの長かった僕にとっては、冬の間雪のせいで布団が干せないのはちょっとしたストレス。せめて今のうちにとさっそく布団干しに取り掛かる。と言ってもベランダがある家ではないので、窓を開けてそこに布団を垂らす形。お日様がポカポカ気持ち良く、布団をパンパン叩くとなお心地良い。家事好きなのはきっとお袋譲りであるが、それが独り身を助長してしまう結果になるとはお袋にとっても誤算だっただろう。まあそんな馬鹿なことを考えながらお掃除片手にお洗濯。
 少しして気が付いた。布団を干している部屋がどうも騒がしい。行ってみると何かがブンブン飛び回っている。まさか、と思い僕は部屋を飛び出しドアを閉める。そして脳裏にはとある恐怖の記憶が蘇っていた。

 あれは一年前の秋。玄関上に蜂の巣ができているのをある同僚(仮にミスターとしておこう)が見つけてくれた。スズメバチは危険、すぐに大家さんに連絡し間もなく駆除の人たちがやってきた。こうして蜂の巣はあっけなく取り払われたが、蜂が飛び回る玄関をしばらく出入りしていたのかと思うとぞっとする。ミスターはまさに命の恩人だ。

 そして話は現在に戻る。何者かが部屋の中を飛び回っている。まさか…また蜂?実はその日はちょうどミスターが来る予定になっていた。彼の実家は理髪店を営んでおり、僕がカットに行く時は車で迎えに来てくれるのだ。僕は事情を連絡ししばらくして殺虫剤を持った彼が登場。二人して問題の部屋に突入。するとミスターは言った。
「五匹いますね…トンボが」
 え?トンボ?
 そう、室内をブンブン飛び回っていたのはトンボだったのだ。しかし僕の知っているトンボはせいぜい数匹で行動し、川沿いの立ち枝や物干し竿にちょこんととまっている姿だ。たくさんで二階の窓から飛び込んできてしかもブンブン羽音をさせているイメージはない。ミスターが確認すると室内だけではなく干していた布団にも何匹もくっついていた。
 まあ心優しきミスターはトンボに殺虫剤をふりかけるようなことはしない。彼はダンボール板を一枚持つと、それを振って室内のトンボを誘導しわずか一分足らずで五匹全てを窓から外に出した。なんだこの手際の良さは?そういえば彼は以前飛行中のカメムシを退治したこともあると語っていた。もしかしたら彼の家系は代々虫使いの秘術でも伝承しているのだろうか。今後はマスターと呼んだ方がいいかもしれない。
 その後布団にくっついていたトンボも逃がし、布団を取り込む。
「いやあ先生、この季節に窓を開け放っていたらこうなりますよ。でもちょっと珍しいトンボでしたね」
 理髪店に向かう車中で彼はそう笑った。ひとまず蜂ではなくて安心したが、暮らし始めて10年目、まだまだ知らない北海道の常識があるようだ。

 店に着いて髪を切ってもらっていると彼のお袋さんが登場。先ほどのトンボについて訊いてみると、この辺りでは『神様トンボ』と呼ばれているそうだ。「五匹も家に入るなんて珍しい、先生、いいことあるかもよ」とお袋さんは笑っていた。神様の化身か御使いか知らないが、殺虫剤をふりかけなくて本当によかった。
 そういえば子供の頃は昆虫がもっと身近にいたな。公園でセミを採ったり、デパートで買ったカブトムシやクワガタを育てたりした。学校の花壇には蝶々が舞っていたし、クラスでカマキリの卵を孵化させて大騒ぎになったりもした。中庭にはバッタもいたし、噴水の池にはアメンボもいた。動物や魚たちだけでなく、彼らもまたこの地球の住人である。そのことを僕はしばらく忘れていたような気がする。

 ちなみに散発の後立ち寄ったスーパーで福引をやったらハスカップのカステラが当たった。これも神様トンボのご利益かな?
 でも一番のご利益は、このトンボがアイデアになって考え中だった小説のストーリーが完成したこと。髪を切ってもらいながら組み立てて、帰宅後すぐにプロットを書いたのでした。来年夏のスペシャルコラムはこれでいけそうです。

 ありがとうマスター、ありがとう神様トンボ。
 そんな小さな幸せが嬉しい秋の日でしたとさ。

CHANGE!

(文:福場将太 写真:カヤコレ)

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