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コラム2017年7月コラム「良いMR・悪いMR・普通のMR」

 今回のタイトルを見て元ネタがわかった方はバブル世代ですかな?まあそれはさておき、この仕事をしていると製薬会社さんにお世話になる場面は多いもの。今回はそんな話をしてみましょう。

 僕たち医療者に薬剤の情報提供をしてくれる人たちをMRさんと呼びます。かつてはプロパーさんと呼ばれていた彼ら、病院を訪問してドクターと面会したり、勉強会を主催したりしてくれます。もしかしたらみなさんもどこかの病院で見かけたことがあるかもしれません。スタッフでも患者さんでもなく待合室に並んでいるスーツ姿の人たち…それがMRさんなのです。  以前は病院とMRさんは今よりもっと関わりが深かったと聞きます。薬剤情報の提供という本業はもちろん、ドクターの学会用のスライド作りの手伝い、資料集め、さらにはゴルフコンペの主催や運転手など医療と関係ないところまでお世話になっていたそうです。お食事会も連日のように主催するので、MRさんたちは胃もたれとの闘いだったとか。まあ伝説みたいな話も多いので信憑性はわかりませんが、当時のテレビドラマを見ると、お薬の契約を取るために医者に高額のプレセントをしたりハニートラップを仕掛けたりするMRさんの姿があったりします。基本はフィクションなのでしょうが、そんなバブル時代の片鱗を感じますね。

 どうして昔話のように書いているかと言いますと、実は近年はそのようなことがないからです。プレゼントや食事会は禁止になったそうで、スタッフとMRさんが関わる場面は激減しました。かつては顔パスで院内を歩き回れたMRさんたちも今はそうはいかず、そもそも彼らとの面会自体行なわない医者も増えています。また製薬会社といえばティッシュや文房具などのノベルティグッズをくれるのがおなじみでしたが、近年はそれも激減、最近はグッズを作ってもそこに商品名を入れるのは禁止になったそうです。じゃあ何も表記していない物ならいいのかと言うと、それをあげるのは物品譲渡なのでNG。つまるところお薬の名前は入っていないけど製薬会社の名前やキャラクターだけは表記されているグッズを渡すしかないというなんだか複雑なことになっているようです。
 僕自身バブル時代はまだ医学部にすら入っていなかった世代で、現在MRさんと接する機会といえば勉強会や訪問して頂いた際の面会くらいです。新しい薬のことを独学で勉強しようと思うと大変なので、MRさんにわかりやすく教えてもらえるのは有難いです。

 そう、彼らは医療の頼もしい仲間…そう思える場合も多々あるのですが、逆に医療とは別の世界にいるんだなあと距離感や嫌悪感を抱いてしまうことも時にはあります。
 自社製品の利点だけをアピールしたり、まるで映画の興行収入のように売上の良さを宣伝したり、嬉々としてぜひ使ってくださいと言ったり…正直そういうMRさんに会うとげんなりしてしまいます。医学部の薬理学の講義で一番最初に習うこと…「薬には必ずリスクがある」。特に精神科で用いる薬はけしてよいことばかりではありません。使わずに済むならそれが一番ですし、それを飲む患者さんにはリスクも負わせてしまうことになります。そんな中、「この薬には我が社の社運がかかっております。どうかひとつご処方よろしく」「たくさんご処方頂きありがとうございます」なんて言われてしまうと、怒りを通り越して寂しくなります。患者さんのことを完全に忘れ去った発言だからです。もちろんMRさんが直接患者さんと触れ合う機会は少ないでしょうから仕方のないことかとも思いますが、やっぱり悲しい話です。
 当然製薬会社もビジネスである以上経営を無視するわけにはいきません。とても良い薬でも採算が取れない商品は販売中止になったり、収益に繋がらない薬には予算が割かれずパンフレットが少なかったりするのも仕方のないことでしょう。ただやはり見失ってはならないこともあるように感じます。
 そしてそれは病院も同じ。僕たちの仕事は病という不幸の上に成り立っています。だからこそけしてそこにつけ込んではならない。精神科医もよく「白衣を着た薬の売人」と揶揄されますが、その意味は真摯に受け止めなければならないでしょう。医療の本分を忘れたMRさんに僕が嫌悪の感情を抱いてしまうのは、その人がどうこうではなく、きっとそこに自分の姿を重ねているからだと思います。そう、偉そうなことは言えないのです。自分だって見失っている時は何度もありますから。

 もちろん大切なことを見失っていないMRさんにもたくさん出会えました。「その場合はうちの薬は使わない方がよいですね。むしろ○○製薬さんの薬の方がよいと思います」とちゃんと患者さんにとっての最善を教えてくれる人もいます。熾烈な営業成績争いの中で、医療の本分を忘れずにいる人がいます。そんな人とはぜひ、接待とか営業とかではなく、仲間としてお食事しながら語り合いたいものです。

 心の医療はゆっくりお話をするのが基本。でもお薬の力を借りなければ治療が立ち行かない場面もたくさんある。精神療法と薬物療法という二つの車輪で心の医療は走っている。製薬会社さんにはぜひ素敵な車輪を開発して頂きたい。そしてこちらもそれに見合うだけの運転技術を身につけなくてはいけません。

(文:福場将太 写真:カヤコレ)

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