コラム

コラム2014年10月「秋の夜長に心の名作(10) 王様のレストラン」

 先月は音楽が嫌になった時に見るとまたやりたくなる漫画をご紹介しましたが、今月は仕事に悩んだ時に見るとまた働きたくなるドラマをご紹介しましょう。

■ストーリー
 そのレストランのオーナーはフランス料理に生涯を捧げた天才シェフだった。彼の死からしばらく経って一人の青年がその店を訪れる。彼の名は原田、亡きオーナーが愛人に生ませた子であり、その遺言により店を託されたのだった。原田は父の親友であり現在は袂を分かっている伝説のギャルソン・千石に協力を求めた。しかしかつては栄華を誇ったその店も今は見る影もなく客足が途絶え、従業員たちもやる気なく惰性で働く惨憺たる状態。プロ意識からその現状が許せない千石は協力を拒もうとするが、原田の情熱とシェフの秘められた才能に微かな可能性を見いだしその依頼を受ける。かくして新オーナーとなった原田とギャルソンとして復活した千石によるレストラン立て直しの日々が始まった。

■福場的解説
 お腹を抱えてしまうコメディ、胸がじーんとなる感動、それらが見事に共存した傑作群像劇。「それはまた、別の話」のフレーズとともに本作の魅力はもうたくさんの方がご存知でしょうから、ここでは『働く』ということを考えるドラマとして考察してみます。
 当然ですが医科大学で学ぶのは医学だけであり、病院の運営学や職員の指導学、楽しい職場の作り方なんて講義はありません。だからこそ社会に出て最初に戸惑ったのは、『学問としての医療』と『仕事としての医療』のギャップでした。病院も組織であり、人間がひしめく職場である以上そこには様々な問題が起こってきます。人の問題にお金の問題…それらを無視してただ医療のことだけを考える、というわけにはいかないのです。
 本作でもレストランは当初様々な問題を抱えています。まず火の車で毎月赤字が増えていく経営状態。スタッフの技術とモチベーションの不足。男女関係や犬猿の仲など様々な確執。お客さんをもてなすというレストランの基本さえ見失っているのに、そんな仕事のやり方が当たり前としてまかり通っている現状。…そんな場所に新参者の原田くんと千石さんが飛び込んだわけですから、もちろん現場からは反発が起こります。一流の店を目指して従業員に正しい方法を指導しても不満は高まるばかり。
 こんな悩み、レストラン経営でなくても会社や部活でリーダーをやっている人にはきっとわかって頂けるでしょう。本作においては少しずつスタッフに一体感が生まれ、よい仕事をすることの喜びが生まれていきます。果たしてそれをもたらしたものは何だったのか…そんな目に見えないけれど大切なものを感じさせてくれる作品です。
 もちろん綺麗ごとだけでは乗り越えられない問題も数多くあります。ヘッドハンティングされるスタッフ、過ちを犯すスタッフ、能力が及ばず足を引っ張ってしまうスタッフ…店のことを考えれば時には情を捨てて決断しなければならないこともある。本作でも店が軌道に乗り始めた後半戦においてはこういったテーマが多く扱われ、ついにはお人好しの原田くんと理想を追う千石さんが対立してしまいます。千石さんは言います、「これはサークル活動ではない」と。その通り、まさにその通り。でもね、みんなを支えるリーダーも実はみんなに支えられていたりする。仲間意識もなくっちゃやっぱりよい職場は作れない。でも優しいだけじゃ技術は向上しない。…本当に難しいですね。
 このレストランの名前はフランス語で『良き友』の意味。ここには理想の職場の1つの答えが示されているように思います。そして働くことの喜び、よい仕事を追究することの面白さを思い起こさせてくれる作品です。果たして彼らは最高のレストランに辿り付けたのか…仕事に悩んでいるあなた、秋の夜長にぜひどうぞ。そして見終わった後でぜひおっしゃってください、「素晴らしい!」と。

■好きなエピソード
 2人が店に来て1ヶ月が経過した頃、千石があまりに指導をするものでついに従業員がストライキを起こす。「そんなに口うるさく言われてもできないものはできない」「千石さんが来て店の雰囲気が悪くなった、前はみんなもっと伸び伸び働いていた」などの不満が上がる。しかし折れるわけにいかない幹部側は現場スタッフなしで店を開けてお客さん対応をしようとするのだが…。

 実は学生の頃は一番面白くないと感じていた第4話。でも社会人になって再見すると何故かかなり心に染みます。どんな職場でもきっとあるでしょう、現場と上層部の対立。お互い立場と意地があってなかなか譲れない。
 本作で示されたその解決法とは…まあ詳細は見て頂くしかないのですが、やっぱり大切なのはお互い一歩歩み寄る姿勢、権利を主張することとわがままをごっちゃにしないこと。そして…みんなで働けることの幸福を忘れないことでしょう。

■福場への影響
 うちの法人でも美唄から江別へ、組織も建物も立て直すという大きな変革が行なわれました。古いものを新しくする、そこには大きな衝突や痛みがあったように思います。そしてもっと身近なところでは美唄メンタルクリニックの立て直し。いかに地域から必要とされる病院になれるか…反省点やアイデアを課長と何度も何度も話し合った日々が本当に懐かしい。やっぱりあの時も全てはスタッフのみんなに救われたように思います。まだまだ道の途中、掴みたい夢はまだまだこの先です。もちろん病院の成功はレストランとは違って患者さんの数や経営状態で測るものではありませんが、少しでもよいサービスを追究するという点は同じ。また気持ちが滅入ったり働く喜びを見失った時はこの作品にヒントと元気をもらいたいと思います。

■好きなセリフ
「人は、料理の前では平等でございます」
 千石武

(文:福場将太)

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