コラム

コラム2012年10月『秋の夜長に心の名作(1) 姫ちゃんのリボン』

すっかり日が暮れるのが早くなりました。みなさんは秋の夜長をどのように過ごされていますか?読書の秋・芸術の秋なんて言いますが、誰の心にもかつて夢中になった大好きな作品があるのではないでしょうか。小説・漫画・ドラマ・映画・・・大人になっても時々ふと思い出したり、久し振りに見てみるとあの頃と同じように胸が熱くなる、そんな作品が私にはたくさんあります。このシリーズではそんな愛しい作品たちを紹介していきましょう。ぜひあなたの夜長に役立てて頂けたら嬉しいです。
さて、記念すべき第1回は漫画「姫ちゃんのリボン」です。

■ストーリー
野々原姫子はスポーツ万能のオテンバ中学1年生。休み時間も男子に混じって野球やサッカーにあけくれ、いつも明るく元気なクラスのムードメーカー。しかしそんな姫子は演劇部所属、その理由はとある先輩に密かな想いを寄せているから。姫子には2つ上の姉がおり、美人でおしとやかで家事も完璧。そんな女の鏡のような姉に姫子は劣等感を感じており、女らしくない自分に自信が持てずにいた。そんな悩みお打ち明けられるのはぬいぐるみのポコ太だけ、友達の前ではいつも脳天気に振舞っていた。
そんなある日姫子の前に魔法の国の王女・エリカが現れる。彼女は姫子にそっくりな顔。エリカによると、彼女がやがて王位を継ぐために「自分にそっくりな人間に魔法のリボンを渡して1年間その動向を観察する」という修行があり、その協力のお願いに来たのだという。そのリボンを使えば1時間だけ自分以外の人間に変身することが出来るというのだ。かくして魔法のリボンを装着することになった姫子であったが、その持ち前の勇み足やお人よしがきっかけとなって数々のトラブルが巻き起こっていく・・・。

■福場的解説
この作品は、姫子の変身を通して「自分と他人」ということについて大切なことをたくさん教えてくれた気がします。例えば「どんな人間でも普段見えない面を持っている」ということ。意地悪な同級生が弟にとっては優しいお兄ちゃんだったり、怖い先生が家では慕われたお父さんだったり、美人で欠点のかけらもないと思っていた姉が大きな劣等感を抱えていたり・・・。また、姫子が元の姿に戻れなくなった時、強く感じた「自分が自分であるということがどんなに幸せか」ということ。魔法のリボンという非現実的なアイテムを通して、私たちの暮らす現実においてとっても大切なことを教えてくれているように思います。どんな相手でも自分からの視点だけで判断してはいけない、自分が自分であることはとても幸福なことなんだ・・・そんな気持ちは何気ない日常の人間関係の中で忘れてはいけないことだと思います。
エリカにリボンを返却する時、姫子は感じます。「エリカの修行は私の修行でもあったんだ」と。私もこの作品でたくさん心を成長させてもらったと思っています。
またこの作品の魅力はその構成。第1話の謎が最終話で明かされるなど全ての複線をちゃんと解決しての過不足なしの全10巻、お見事です!
姫子が魔法の国と関わっていた時間は中学生のほんのわずかな季節だけ。不思議なことがたくさん起こって、奇跡にだって手が届きそうだった日々・・・それはまるで今でも懐かしく思い出す自分の青春に重なる気がするのです。

■私への影響
姫子の同級生・小林大地はリボンの秘密を知ったことから姫子の協力者になるのですが、そんな彼は本当にかっこいい少年として描かれています。偉そうだけど頼りになって、意地悪だけどとっても優しい、そして間違っていることはそう言える・・・。そんな彼に憧れて一時期クラスの女子を苗字呼び捨てにしてみましたが、反感を買っただけでした。また彼の真似をして自転車旅行もしたりしましたね。私には到底無理ですが、小林大地は理想の少年像です。
この作品、もともとは妹の漫画を借りて読んでいたはずが私の方が没頭してしまいました。ちなみにアニメ版の主題歌だったSMAPの「笑顔のゲンキ」はまさにこの作品のテーマにぴったり、原作漫画とともに心の名曲となっております。

■好きなエピソード
同級生・日々野ひかるの姿から元に戻れなくなった姫子。しかもそれは誕生日の夜。家族にも自分が姫子であると打ち明けられず、もしかしたらこのまま一生元の姿に戻れないという不安と絶望の中、姫子のもとにかけつけてきた大地。その時、姫子は自分の想いにはっきりと気がつく。
いやあ、姫子の姿じゃない時に一番大切な気持ちに気づかせるなんてニクい演出ですね。でもこのシーン、「どんな姿でも心は本人のもの」「心こそがその人が確かにその人である証明」ということを感じさせてくれたように思います。

■好きなセリフ
「お前は野々原だよ、どんな姿でも!」小林大地

(文:福場将太)

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