コラム

コラム2017年10月「秋の夜長に心の名作⑲ 魔法使いTai!」

 さてさて残すところあと2作。今月はまさかのこの作品、名作OVA『魔法使いTai!』です!

■ストーリー
 高校2年の沢野口沙絵は素直で一生懸命だけど何をやってもドジばかり。そんな彼女が入部したのは『魔法クラブ』、3年の高倉武男が部長を務める魔法の練習を活動とする同好会。「高倉先輩のように立派な魔法使いになりたい!」と多少勘違いしながらも楽しく部活に励む沙絵であったが、ある日高倉が勢いで「ツリガネと闘う!」と宣言してしまう。ツリガネとは宇宙からやってきて地球に居座ってしまった謎の巨大飛行物体。軍隊でも撃退できないのに自分たちに闘えるはずがない…他の部員たちがあきれる中、沙絵だけがそれを本気にしてしまう。引っ込みのつかなくなった高倉は本当に出撃を考えることになり…?そんな魔法クラブの活躍を描いたドキドキ青春ストーリー!

■福場的解説
 この作品は一言で評すれば「マイナー派への讃歌」とでもなるのか、とにかく何から何まで僕の好みです。まず一番たまらないのは、部活で魔法を練習しているという設定。高倉は幼少時に偶然見つけたグリモワール(魔法書)とマジックワンド(魔法の杖)から魔法というものに興味を持ち、独学で勉強と練習を続けてきました。そしてついに奮起して魔法クラブを立ち上げ、そこに仲間たちが入部してくるのです。部室は華やかな漫画研究会の部室の一部をパーテーションで間借りしただけという小さな部屋、そこで部員たちはユニフォーム(西洋の魔法使いのような大きな帽子の服を現代風にアレンジしたもの)を着て何やら呪文を唱えながら魔法を練習しているのだから本当に笑っちゃうほどマニアックです。

 本作は現実と非現実のバランスが絶妙で、登場人物たちが生きているのは僕らと同じ現代日本。彼らが使う魔法もけして万能ではなく、勉強と練習を重ねてようやく少しだけ使えるというもの。それを象徴しているのが部活の自主練メニュー「鉄棒またぎ」でしょう。ホウキで空を飛ぶためには長時間お知りの痛みに耐えてバランスをとらなくてはいけない、そこで普段は鉄棒にまたがて特訓をしているというわけです。もちろん他の生徒たちからは何をしているのかわけがわかりません。本作における魔法は、あるはずないんだけどあるのかもしれない、ひょっとしたら手が届いてしまいそうな、そんな絶妙な場所に配置されています。

 そして沙絵と高倉だけでなく、他の魔法クラブのメンバーもとても魅力的で、みんなそれぞれこの部活に所属するほのかな理由を持っています。沙絵の幼馴染でしっかり者だけど恋愛への憧れとコンプレックスも抱えている七香(2年)、グラビアアイドルでもありデート三昧で部活サボリの常習犯だけど誰にも本心を見せられない寂しさを抱えている茜(1年)、そして容姿端麗・文武両道だけど努力なしの天才で情熱を持っていない自分に虚しさを抱えている油壺(3年)。たった五人の弱小同好会ですが、だからこその楽しさ、だからこその絆がそこにはあって、彼らが織り成す物語は壮大なようで可愛らしく、微笑ましくてちょっぴり切なく、そして青春時代に胸の奥にあったあの感覚をあたたかく思い出させてくれるのです。特にスポーツや恋愛といった華やかな青春ではなく、マニアックで地味だったけどとっても楽しかったという方にはお薦め。マイナー派の青春だって捨てた門じゃないとこの作品を見る度に励まされます。

 驚くべきはこの物語は1話30分のたった全6話で完結しているということ。当時はOVAという言葉も知りませんでしたが、テレビ放映ではなく販売・レンタルだけのために製作されたアニメで、僕も偶然友達から教えられなければ知るチャンスもなかったでしょう。たった6話なので設定などが細かく説明されているわけでもないけれど、それでも登場人物たちに十分愛着がわくのは、彼らの心情は細かく説明しなくても誰もが胸の奥の引き出しにしまってある気持ちばかりだからなのでしょう。濃厚な全6話はまるで一本の青春映画のようで、笑ったりキュンとしたり勇気が湧いたり、彼らの学園風景から最後の大冒険まで堪能することができます。

 ちなみに続編としてテレビシリーズ全13話も製作されました。こちらはOVAシリーズでは描かれなかった彼らの家族や日常の小さな事件が描かれています。こちらの特徴としては、特に人間関係の面でさらに現実要素を強めていること。これまで仲間でいられた魔法クラブのメンバーの中に気まずさやすれ違いが生じます。魔法が大好きだった沙絵が魔法を嫌いになってしまったり、高倉の大学受験などの話題も出てきます。今がずっと続くわけじゃない、そのことをしっかり描くことで魔法というものが青春時代の夢の象徴のようにも機能していると感じました。

 何をやってもドジで自信の持てなかった少女が魔法という可能性に希望を託し、仲間たちとの日々を通して成長していく…もちろん主人公・沙絵の物語も好きです。でも今回久しぶりに観賞して再確認、やっぱり僕にとってのヒーローは高倉、彼こそ僕の理想のリーダー像です。クラスでは目立たない存在、それでも自分の好きなことだけは人知れず頑張っている、上り詰めてもせいぜいマイナー同好会の部長、それでも仲間たちだけは慕ってくれている、かっこつけてもいつも外してしまう三枚目、勢い発言と誤魔化し笑いのオンパレード、だけど責任感は強く自分に厳しい…。沙絵だけでなく他のメンバーも魔法クラブに足が向いてしまうのは、高倉が自分にはないうらやましい何かを持っているからでしょう。
 自分のせいで仲間たちを危険に巻き込んでしまった彼ですが、全てが無事解決しツリガネから脱出する時に微笑みあう沙絵たちを見ながら、申し訳なさそうに、そして愛おしそうにほっとしている彼の表情はとても素敵です。頼りないけど愛と情熱に溢れたこんな男に僕もなりたいです。やっぱりマイナー派が再考!

■好きなエピソード
 夏合宿、沙絵と高倉は漫画研究会のパーティで余興をさせられることに。手品ということにして「嘘をついたらマジックワンドが反応する」という魔法を披露するが、トラブルでマジックワンドは壊れてしまう。その帰り道、お互いを意識し合う二人だが結局それを言葉にはできず、キャンプファイヤーを楽しむ仲間たちのもとに戻る。沙絵の様子に気付いた七香は彼女に高倉への想いをこっそり尋ねる。キャンプファイヤーを囲みながら、沙絵は「高倉先輩は私にとってとってもいい先輩で、私は魔法を教えてもらえるだけで十分幸せなんだ。本当だよ」と答える。でもその時手に持っていた壊れたマジックワンドが…。

→まさしく青春ですね。現実の中に魔法という非現実アイテムを一つ加えることで織り成される物語がやっぱり僕のツボのようです。40を前にしてこんなことで喜んでいる場合ではありませんが、何も今に始まったことじゃない、20年前から同じドキドキをこの作品に心は感じ続けているのです。

■福場への影響
 大学時代、魔法というものに興味を持って一時期その手の本を読んでみました。驚くことに大きな本屋さんであれば、ちゃんと専門書コーナーに魔法・魔術の本は置いてあるのです。けして冗談の本ではなくれっきとした学術書でありお値段も医学書くらい高額です。読んでも難しくてほとんどわかりませんでしたが、科学や医学と同じくらい魔法も理論に基づいた学問なんだなあと思いました。
 だからみなさん、魔法はけして非現実ではないんです。本作のようにホウキで空を飛ぶことだってできないことではない。ただしそのためにはちゃんと勉強して、道具を揃えて、練習しなければいけないということです。そういえばデイケアや作業療法のプログラムで魔法の練習というのは今まで聞いたことがありません。ヨガや太極拳だってあるのだから、魔法練習があってもよいかもしれませんね。

■好きなセリフ
「みんな、自分の大切な人のことを考えるんだ!そしてその気持ちを沢野口くんに!」
 高倉武男、ツリガネ決戦での部員たちへの指示

            

(文:福場将太)

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